もう君には会わない。そう決めたから。
もう君には会わない。
僕がそう決めたから。
悔しいけど、君と始めて会った時の事は鮮明に覚えている。
君の店に始めて行ったのは一昨年の8月。ちょうどお盆休みの頃だった。
ひどく蒸し暑い日だったのを覚えている。その頃の僕は為替の大損にあい酷い自暴自棄に入っていた。
もう、どうにでもなればいい。
全て無くなればいい。
もう人生の終わりとさえ考えていた。
そんな時、ふと目に入ったのが君の店の赤い看板だった。
2度目の結婚とは言え、妻子のある身分。
そんな事をするのは僕には縁の無い事。ずっとそう思っていた。妻を裏切る様な事は出来ない。それで当然だった。
でも、この時は違った。酷い自暴自棄から逃げる様に、その赤い看板のネオンに吸い寄せられた。
緊張して始めて入る店内。店の中は上手く出来ていた。お客さん同士が鉢合わせにならない様に、粗末なパーテーションで上手に区切られていた。知り合いに逢ったら恥ずかしい。そんな気持ちで入り口脇の丸い椅子に座った。
そこで始めて君に出会った。
一眼見た時から、その緊張は安らぎと言う安堵感に変わった。君は優しく声を掛けてくれる「いらっしゃいませ。初めての方ですか?」見た目以上に元気な声だった。そこで君は、こういった店での経験がない僕を優しくエスコートしてくれた。僕は君の指示に従い、あっと言う間に事は終わった。あっけなかった。
目的を達した僕は逃げる様にして店を去ったのを覚えている。
それからはと言うと、妻の目を盗んでは何かと君の店に立ち寄る様になる。
すっかり、君が居ないと生きていけない体になっていた。妻には申し訳ない。解ってはいるが自分には制御出来なくなっていた。
悔しいけど、この時点ですっかり落ちていたんだと思う。
でも、会えば会う程にいつか決別をしなきゃいけない事も解っていた。
だからもう終わりにする。
もう君には会わない。
妻と子供の為にも。
壊し掛けた家庭を再構築する為にも。
今日から僕はブラックリストになる。
だからもうさようなら。
赤い看板、ア○フルのATM